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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)1011号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人太田稀の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、原判決は、被告人らが他人を殺傷する用具として利用する意図のもとに原判示ダンプカーを準備していたものであるとの事実を確定し、ただちに、右ダンプカーが刑法二〇八条ノ二にいう「兇器」にあたるとしているが、原審認定の具体的事情のもとにおいては、右ダンプカーが人を殺傷する用具として利用される外観を呈していたものとはいえず、社会通念に照らし、ただちに他人をして危険感をいだかせるに足りるものとはいえないのであるから、原判示ダンプカーは、未だ、同条にいう「兇器」にあたらないものと解するのが相当である。これと異なる判断をした原判決には、右「兇器」についての解釈適用を誤つた違法があるが、原判決の維持する第一審判決によれば、被告人らは、右ダンプカーのほか、けん銃、日本刀などの兇器の準備があることを知つて集合したというのであるから、右ダンプカーを除いても、被告人につき同条所定の兇器準備集合罪が成立するのであり、原判決の右違法は判決に影響を及ぼすものとは認められない。

そのほか、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(天野武一 田中二郎 下村三郎 関根小郷)

弁護人の上告趣意

一、原判決には刑事訴訟法第四〇五条三号及び同法第四〇六条の事由がある。

二、原判決はダンプカーが刑法二〇八条の二の兇器に該ると判断しているがダンプカーは、列車、飛行機、船舶等と同じく運送手段であつて社会通念上生命身体に対する故意の侵害用手段に利用されてはいないので兇器には該らず原判決は法令の解釈適用の誤りがある。

三、大審院判決(大正一四年五月二六日集四巻三二五頁)も兇器とは「鉄砲槍戟竹槍棍棒等ト同視スベキ程度ニ在ル用法上ノ兇器ニシテ社会ノ通念ニ照ラシ人ノ視聴上直チニ危険ノ感ヲ抱カシムルニ足ルモノタルコトヲ要ス」と解しており原判決のダンプカーは兇器なりとする判断は少くともこの大審院判決と相反するものである。

四、学説の通説(高田卓爾、注釈刑法(五)一〇七頁、河井信太郎・法曹一〇巻五号六一頁、柏木・各論三四四頁、江家・各論三六二頁、青柳・各論三一六頁、熊倉・各論上一七三頁)も通常のステッキ、繩、手拭のごときはすべて兇器にあたらぬものと解している。

五、罪刑法定主義(憲法三一条)の趣旨からいつても兇器の概念とその範囲が曖昧になることはできる限り避けるべき(前掲高田一〇七頁参照)であり、その道具がつくられた一般的目的とその道具の性質、その道具が通常どの程度悪用されているかを分析したうえで一般的客観的に兇器とすべきか否かを厳密に判断すべきである。

以上いずれの見地からいつてもダンプカーは兇器と解される余地なく、原判決は破棄すべきである。

以上

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